ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.86

水菓子 その四

「マチ ガ ツブレル」①

 「ネットで買うと、送料込みでも安く買えたりするらしいのよね」

 Aくんの友人の、ちょっと失礼な、あの、「前頭葉老化発言」の奥さんが、ナニ気に漏らした一言である。なんと、その奥さんのあるお友だちは、食材以外は、ほとんど、ネットで購入しているというから驚きだ。

 送料込みでも安い!?

 どういうシステム、いかなるメカニズム。ナゼ、そんなことが可能なのか。当然のごとく、私には、全く理解できない。

 ナゼか、突然、ある地方の商店街のことを思い出す。

 絵に描いたような閑散としたシャッター通り。それでも、時折、突然、ポツンと、妙に賑やかな店があったりする。私がたまたま伺った、その、ヤタラとつぶ餡が美味しい和菓子店も、お客さんが入れ替わり立ち替わり、途切れることがなかった。ナゼかその店だけは、過疎化など、微塵も感じさせてはいなかったのである。

 今、思い出しても、たしかに、あの店は凄い、ホントに凄いと思う。孤軍奮闘とは、まさに、あの店のコトをいうのだろう。

 でも、やはり、その商店街が閑散としたシャッター通りであることに変わりはない。残念ながら、一つの店の奮闘だけではどうにもならない厳しさが、地方にはある。じゃ、他の店も、その和菓子店のように頑張ればいいじゃないか、などと宣う人もいるかもしれないが、そんな酷なこと、到底、私には言えない。

 そうした地方の現状を目の当たりにしてきただけに、私は、ネット通販(巷では、オシャレに「ウェブショッピング」などと言われたりしているようだけれど)に対して、どうしても、「好ましくないモノ」というイメージを抱きがちだ。

 たしかに、安い、便利、なんでも買える、楽チン、と、メリットはあるとは思う。あるとは思うが、そのコトが、その地域のまちづくりに、全くもって繋がらないように思えてならないのである。加えて、さらに私が気になって、気になって仕方がないのは、今、買おうとしているその商品の、その背景が、ナニも見えてこない、というコトだ。

 そう、背景。その商品の背景。

 どんなトコロで、どんな人が、どんな思いで、表情で、という、生々しい背景が、全くナニも見えてこない、伝わってこない、ような、そんな気がしてならないのである。

 とりとめのないソンなコンなのアレやコレやをボンヤリと考えたりしているうちに、私は、あの商店街が、あの街が、ドンドンと心配になってくる。

 そんな私のネガティブ噺(バナシ)に、静かに耳を傾けていたAくんは、ようやく、黒蜜がトロリとかかった吉野本葛のくずきりをズルズルとススりながら、ボソボソと、語り始めた。(つづく)