ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.45

止め肴 その壱

「ヒトリデ ナヤマズニ」

 「一人で悩まずに相談してね」。

 先輩や上司にそんなことを言われたら、普通、「いい先輩だな~」 、「いい上司だな~」と思うところだが、常に懐疑的なAくんは、そんな簡単に人に相談できるようなモノならば、そんなモノは「悩み」でもナンでもない、とバッサリ 。

 いくらナンでも、ソレは、ちょっと厳しすぎるのではないだろうか。大昔から、「藁(ワラ)にもすがる」 、 「溺れる者は藁(ワラ)をもつかむ」、などと、言われていたりもするぐらいだから。たとえ、根本的な解決には、ほとんどナンの役にも立たない藁であったとしても、その藁のお陰で、ほんの少しでも救われた気持ちになれるのであれば、ソレでいいじゃないか、と、思うのである。

 ところが、Aくんは、「悩み」そのものが軽減、できることならば払拭、されない限りは、そんなモノ、「悩みの相談ごっこ」に過ぎない、と言い切る。

 悩みの相談ごっこ、か~。

 大いなる悩みを抱え、その重さに耐え切れず、深く沈もうとしている者たちを、その重圧から解き放つことなど、そうそうできることではない。ソレでも「相談に乗る」、「相談に乗ってあげたい」、と、いうのであれば、その覚悟がいる。ソコまでの覚悟がなければ話にならない、と、さらにドンドンと厳しくなっていく、鬼の、Aくん。

 ソコまでの覚悟があってこその、相談に乗る、ということか。

 すると、鬼は、いや、彼は、ボソリと、こう呟いたのである。

 「そんな覚悟をもって相談に乗れる先輩、上司になりたいものだな」

 ナニか、職場で、己の無力さを痛感させられるような、そんな無念な出来事があったのだろうか。いや、きっとそうに違いない。そんな気がする。ナゼか、いつもより、小さく低い声でそう呟いたあと、Aくんは、お気に入りの純米酒のぬる燗を、静かに、ひたすら静かに、ユルリ、ユルリと、呑み干した。

 それほど「相談に乗る」とは大きなコトであり、難しいコトなのだ、と、あの時、Aくんは、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。

 覚悟をもって相談に乗る、か~。

 たしかに、ハードルは高いな。

 考えれば考えるほど、たいていのコトは、己の力で乗り越えていくしかない、と、思っていた方が賢明であるように思えてはくる。おそらく、そう簡単には、あなたの腕を掴み、ソコから引き摺り上げてくれる救世主のような先輩や上司など、現れてはくれないだろう。だがしかし、仮に現れてくれなかったとしても、悩める者たちよ、その悩みには半減期がある。すぐには消え去らなくとも、時間の経過とともに薄まっていく。薄まれば必ず立ち直れる。復活のチャンスは間違いなく、絶対、やってくる。(つづく)