強肴 その十
「バカダネ~マッタク」(初代おいちゃん『男はつらいよ』)
主演の渥美清が、渥美清なのか寅さんなのかがわからなくなってしまうぐらいの国民的映画、『男はつらいよ』シリーズ。そんな寅さん映画を、ちょっと浪花節なAくんは、こよなく愛している。失われつつある「昭和」を、映画を通してジンワリと体感しているのかもしれない。
舞台は葛飾柴又、帝釈天の門前にある草団子屋「とらや」(シリーズ途中から「くるまや」に変更されるけれど)。旅先から帰ってきた寅さんは、毎度毎度「ひとめぼれ」のドタバタ喜劇を繰り広げる。そんな寅さん映画の中の、Aくんオススメ、ほのぼの名言、で、ある。
そう、バカだね~。
この、(私がお気に入りの役者でもある)森川信、演じる、初代おいちゃんの「バカだね~」は、この地球上で最もあたたかい「バカだね~」である、とAくん。とくに『男はつらいよ 純情篇』では、そのあとに「まったく」のオマケまで付いてくるからタイヘンだ。そのオマケが付くことで、体感温度は更にグンと上昇する。
そう、バカだね~まったく。
なるほど、Aくんの熱弁を聞けば聞くほど、この「バカだね~まったく」には、ナニか不思議な温かさのようなモノがあるような気がしてくる。
たしかに、活字の上っ面だけを見れば、「人をバカ呼ばわりして、けしからん!」ということになるのかもしれない。しかも、「まったく」などとダメ押しまでして。
だがしかし、そこに秘められた温かさは、更に大いなる温かさを生む、まさに「温かさが温かさを呼ぶ温かさ温かさワールド」(舌を噛みそうだけれど)なのである。
「バカだね~まったく」
そのコトバのあとから、ぬくもりとか、思いやりとか、ねぎらいとか、励ましとか、が、優しく優しくドンドンと、次から次に押し寄せてくる・・・そんな気がしてならないのだ。(つづく)