ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.43

強肴 その十

「バカダネ~マッタク」 (初代おいちゃん『男はつらいよ』)

 主演の渥美清が、渥美清なのか寅さんなのか、が、全くわからなくなってしまうぐらいの国民的映画、『男はつらいよ』シリーズ。風前の灯火となりつつある「昭和」をこよなく愛すAくんは、当然のごとく、この寅さん映画もまた、こよなく愛しているようだ。きっと、そうした、消えようとしている「昭和」を、映画を通してジンワリと、ジンワリと、味わい倒しているのだろう。

 舞台は葛飾柴又、帝釈天の門前にある草団子屋、「とらや」。ナゼか、シリーズ途中から「くるまや」に変更される。旅先から帰ってきた寅さんは、毎度毎度、愛しい「ひとめぼれ」のドタバタ喜劇を繰り広げる。そんな寅さん映画の中の、Aくんオススメ、ほのぼの名言、が、コレ、コレなのである。

 バカだね~。

 そう、バ、カ、だね~。

 (私のお気に入りの役者でもある)森川信が演じる初代おいちゃんの、その「バカだね~」は、この地球上で最も温かい「バカだね~」だとAくん。とくに『男はつらいよ 純情篇』では、そのあとに「まったく」のオマケまで付いてくるものだから、体感温度は、更に一層グンと上昇する。

 バカだね~まったく。

 そう、バ、カ、だ、ね~、まったく。

 なるほど、Aくんの熱弁を聞けば聞くほど、この「バカだね~まったく」には、いわゆる「冷笑系」のソレとは真逆の、ナンだか妙な温かさのようなモノがあるように、たしかに思えてくる。

 たしかに、四角四面に活字の上っ面だけを見れば、「人をバカ呼ばわりして、けしからん!」ということになるのかもしれない。しかも、「まったく」などとダメ押しまでして。

 だがしかし、ソコに込められた温かさは、更に大いなる温かさを生む、まさに、「温かさが温かさを呼ぶ温かさ温かさワールド」なのだ。

 そんな、バ、カ、だ、ね~、まったく。

 そのコトバのあとから、温(ヌク)もりとか、思いやりとか、励ましとか、が、優しく優しくドンドンと、次から次へと押し寄せてくる、ような、そんな気がしてならないのである。(つづく)